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釧路地方裁判所 昭和48年(む)1号 決定 1973年3月22日

被疑者 小林輝夫

主文

原決定を取消す。

理由

一  本件申立の要旨は、検察官仙波敏威作成の昭和四八年三月二一日付準抗告及び裁判の執行停止申立書(甲)、及び準抗告申立追加理由書記載のとおりであるからこれを引用する。

二  当裁判所の判断

(一)  本件逮捕手続に至る経緯は、釧路市北大通り四丁目一番地交差点付近から、被害者根内勝己の運転するタクシーに乗込んだ被疑者が乗車直後、何ら正当な理由もなく被害者の顔面を殴打したため被害者において右車両の運転を継続して同市北大通り一丁目所在の幣舞橋警察官派出所に赴き、被害を申告したため、同派出所警察官が被疑者を現行犯人として逮捕するに至つたものである。

そこで、右逮捕手続の適法性につき検討するに、本件記録によれば、被疑者が被害者を殴打したのは、右派出所から僅か約二〇〇メートルしか離れていない地点を走行中のタクシー内であり、被害者は暴行を受けるや直ちに被疑者を同乗させたまま右派出所に赴き、被害の約一分後には警察官に被害の事実を告げ、同警察官において、被害者の顔面に殴打された痕跡があることを確認し、更に被疑者に対して、右暴行を加えた事実があるか否かを質問し、同人が自認したため、現行犯人として逮捕したことが認められるから、これらの事実によれば、被疑者は、刑事訴訟法二一二条一項にいう「現に犯罪を行い終つた者」に該当するというべく警察官の本件逮捕手続には何ら違法な点はない。

(二)  次に、刑事訴訟法六〇条一項所定の勾留の要件の有無につき検討するに、まず、被疑者に「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることは本件記録により明らかである。

そこで、更に同項各号の事由の有無につき判断するに、被疑者は以前、ヤクザ団体飯島連合会に所属していた経歴を有し、本件犯行後警察官の取調に対しては、同連合会とは現在縁が切れている旨供述しているものの、本件逮捕時には、自己が暴力団員である旨述べて警察官に対し虚勢を示していたのであるから、右供述は直ちに信用できず、右逮捕時の被疑者の行動に鑑み、このまま同人を釈放する場合には、被害者に不当な圧力を加えるなど「罪証湮滅をはかるおそれ」があり、また被疑者は昭和四七年一〇月小林和子と結婚し、同女及び同女の次男と生活を共にしているものの、現在土工夫を職業とし、これまでも転々と飯場を変えて生活していたことが認められるので、同人には「逃亡のおそれ」もあるというべきである。

三  以上の次第であるから本件準抗告の申立は理由があるので、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項を適用して主文のとおり決定する。

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